2020/04/01 02:51

第一次大戦従軍画家の描く王妃


ハプスブルグ家皇女からルイ16世妃を経て1793年に処刑されたマリー・アントワネットには、肖像画・革命前夜から革命時にかけてのカリカチュア・革命の記録画・後世の耽美的イコンなど、様々なジャンルにわたる数多くの表象が見られる。


肖像画においては、とくに女性画家エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランによる、パステルを用いてふわふわした質感と色合いを出したロココ絵画が後世の耽美的なアントワネット像に影響を与えた。日本では『ベルサイユのばら』やロリータ文化などを通して、「ゆめかわいい」アントワネット像の受容が見られる。


フランスの国勢はヨーロッパ全土の関心事であり、イギリスやドイツなど周辺諸国でもカリカチュアが描かれた。当時、風刺される人物は痩せこけた姿で描かれるか、動物になぞらえられることが多かった。


革命時に描かれた記録画においては作品性より即時的なニュース性が重視され、匿名の作者によるものも多く、ペン画や水彩など速く描ける技法が多用される。印刷・配布を前提として銅版画も作られた。カリカチュアや記録画は「大衆」という新たな市場に向けて描かれた(参照:多木浩二『絵で見るフランス革命』岩波新書、1989)。
革命政府のお抱え画家となるダヴィッドは、革命の理知的な正義を強調した新古典主義的な油絵を仕上げる過程で、多くのデッサンを残している。とくに、簡素な服をまとい両手を縛られた険しい顔の中年女性として描かれた処刑直前のアントワネットの素描には、全盛期の王妃を描いたロココの肖像画にはない強靭さと気品がある。


《刑場へ向かうマリー・アントワネット》は、フランスの画家フランソワ・フラマン(François Flameng,1856-1923)によって1887年に描かれた。フラマンは、第一次世界大戦の公式軍事画家として活躍し、レジオン・ド・ヌール勲章を授与されている。19世紀末から20世紀初頭にかけて活動したフラマンの絵は、新古典派・ロマン派・印象派・リアリズムなど、さまざまなスタイルの影響を受けている。このアントワネット像には、中間色を用いたリアリズム的表現のうちに、遠近法を用いて主役を大きく描く大胆な構図が見られる。王妃の表情・姿勢・服装などはダヴィッドの素描と似ている。


我々はロココ絵画の軽薄な可愛らしさで語られることの多いアントワネット像に抗するためにこれを選んだ。


この絵の商品はこちら(XL,L,M,S